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GF e-side

純情エゴイストへの愛を散らかし中。

2024'11.23.Sat
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2008'08.24.Sun
今までに、一体いくつの約束が消えて来ただろう。

お互いに仕事が忙しい上に、職業柄、野分は急な仕事が入る事が多いのも災いして、数え切れない程の約束が駄目になってしまった。
しょうがない、と頭では理解しているものの、約束がふいになってしまった時の落胆する気持ちはいつになっても慣れない。

贅沢を言っているわけではない。休みの日にちょっと一緒に買い物に行ったり、のんびり家でDVDを見たりしたいだけなのに。普通の恋人達がするような二人の時間の過ごし方ができない…。

研究室でパソコンのキーボードを叩きながら、どうしてこんなにグダグダと考えているのかというと、明日は野分と出掛ける約束をしているのだが、また駄目になってしまうかもしれない…などとネガティブな気持ちになっているからだった。
久しぶりのデートは本当に楽しみだ。随分前から行こうと話していたが、なかなか二人の予定が合わずに、やっと明日決行する事になった。

もしかしたら、駄目になってしまった時のダメージを軽減する為に、無意識のうちに楽しみにし過ぎる気持ちを抑えようとして、マイナス思考になっているのかもしれない。野分を信用していないようで失礼な気もするが、今までのパターンを考えると、約束が駄目になる確率の方が高いのは確かだった。

やっていた仕事がキリの良いところまで来たので、一息つくかと席を立とうとした時、机の上に置いてある携帯が鳴り、思わずビクリと固まる。
着信を見ると、仕事中には余程の事がないと電話を掛けてこない野分の名前が出ている。

ああ、やっぱり。

予想していた通りの落胆が襲う。悪い方に考える事で心をガードしていた気になっていたが、そんな事は何の役にも立たなかった。
この電話に出たくない。出て、「明日の約束、駄目になってしまいました」という言葉を聞きたくない。

しかし、鳴り続ける電話を無視し続ける訳にもいかず、観念して通話ボタンを押した。
「…もしもし」
『あ、ヒロさん、お仕事中すみません。今、大丈夫ですか?』
「ああ、丁度今一段落ついたところだから」
『あの…。明日の約束なんですけど…。すみません!明日、どうしても出なきゃいけなくなっちゃって…っ』
思っていた通りの、何度も聞いた野分の申し訳なさそうな声。
そして、俺も今まで何度も言ってきた言葉を、平静を装って口にする。
「仕事なんだから仕方ないだろ。気にすんな」
まさかここで、“約束が違う!酷い!”などと言える訳がない。俺達は大人だ。お互い、責任を持って仕事に就いている。特に野分は人命を預かる仕事で、それを優先するのは当然だ。
『本当にすみません…』
この台詞も何度聞いただろう。約束は、またすればいい。今度二人の予定がいつ合うのか皆目見当もつかないが、いつかは一緒に出掛けられる日も来るだろう、と気休めにもならない考えで自分の気持ちを誤魔化すしかない。

『だから…っ、今日デートしましょう!』
「………は?」
野分の言った意味が分からなくて、本気で聞き返す。
『明日出る替わりに、今日の午後は休みにしてもらえたんです。ヒロさんさえ都合がつくなら、これからデートしましょう!』

確かに、今日はもう講義はない。早急に片付けなければならない論文も今のところないし、さっきやっていた仕事はキリの良いところまで終わらせたばかりだ。頭の中で素早く計算して、午後は仕事をやらなくても問題はないだろう、という答えを弾き出す。

『あ…もしかして、まだ仕事あります?今日の午後は講義ないってヒロさん言ってたから…』
電話の向こうの声から、しょぼくれた様子が想像できて思わず苦笑する。
「しょ…しょーがねーな。いいよ、行ってやる」
『ありがとうございます!』
相変わらず感情がストレートに出るやつだ。野分の弾んだ声を聴くと、こっちまで嬉しくなってしまう。野分が俺との約束をこんなにも楽しみにしてくれている事が、嬉しい。

待ち合わせの時間と場所を決めて電話を切り、教授に早退する旨を伝える。
「教授、今日はあがらせてもらいます」
「………上條」
「はい?」
「午後は研究室の整理手伝ってくれるって言ったじゃないか…」
そういえば、時間があったら手伝うという話をしたような気がする。すっかり忘れていた。
「あー…、時間があればって事でしたよね。すみません、今日は急用入っちゃって。その代わり明日手伝いますから」
「……何が急用だ。鬼の上條がそんなにやけた顔してたら、学生がびっくりするぞ」
教授に言われて、顔が熱くなる。そんなに顔に出てたか、俺?思わず頬に手をやると、そんな俺を見て、教授はヒラヒラと手を振った。
「冗談だよ。さっさと行ってこい」
この人は…。見通されているようで悔しいが、まあ、ここはお言葉に甘える事にしよう。

荷物をまとめて、研究室を出る。この時間に大学を出たら、約束の時間よりも大分早く着いてしまう事に気付いたが、いつもの事なので気にしない事にした。今は早く野分に会えるのが嬉しい。前倒しになった約束が、ここまで自分を浮かれた気分にさせるとは思わなかった。

そして俺は、足取りも軽く、野分との待ち合わせ場所に向かったのだった。

Fin.

--
エゴの二人は、約束して一日中一緒にゆっくり出かける、とかがなかなか出来なそうです。
お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。
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