GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
2008'07.06.Sun
はさみ、のり、色とりどりの折り紙と、折り紙の折り方の本…。
リビングのテーブルがカラフルな物で埋まっている。
リビングのテーブルがカラフルな物で埋まっている。
「あ、すみません。すぐ片付けます」
「いや、別にいいけど…。何やってんだ?」
野分は、折り紙で折られた星を手に持っている。
「もうすぐ七夕だから、病棟の子供達と七夕飾りを作るんですよ。その準備です」
「ああ、そういやもう七月か」
子供の頃は、庭に大きな笹があって、毎年それを切って飾りを付けたりした。大人になってからは縁のない行事になってたので、気にも留めていなかった。
「これは?」
長方形の紙が何枚も重ねられているのを一枚手にとって尋ねる。
「短冊です。みんな、願い事を何するか、今から楽しそうに考えてるんですよ」
入院中の子供達の事を語る野分の瞳は、優しさをたたえている。病気の子供達が、このような行事で少しでも元気になってくれるのが嬉しいのだろう。
「あ、そうだ。短冊いっぱいありますから、ヒロさんも願い事書きましょうよ」
「はあ?そんなガキみたいな事できるかっ」
俺はそんなガラじゃないだろう。それに、願い事なんて思い付かない。
「願い事は何でもいいんですよ。ほら」
まっさらな短冊とペンを押し付けられたが、願い事などと言われても本当に何も浮かばない。
「別に願い事なんてねえよ。書きたきゃ、お前だけ書けばいいだろ」
冷たい物言いのようだが、願い事を強制されてはかなわない。少し強めに言ったから、流石に野分も諦めるだろう。そこまでしてやらせる程のものでもないはずだ。
しかし、一瞬の逡巡の後、野分が言い放った言葉は、俺の予想を越えていた。
「わかりました。じゃあ、一緒に書けばいいんです」
「一緒にって…」
「二人で書けば、二人の願い事ですよね」
野分が何を言っているのか分からずに固まってしまった俺の背後に、野分が回り込む。背中から抱きしめられるような格好で、野分の手が、ペンを持っている俺の手に重ねられる。
「…てめっ…何やってんだ!くっつくな!」
重ねられた手の温かさと、背中に感じる野分の体温のせいで、落ち着きをなくしてしまう。体を離そうともがくが、力では野分に敵わない。
「ヒロさん、暴れないで下さい。字が書けません」
「……アホっ!耳元で喋んなっ!」
無意識なのか、ワザとなのか、顔を寄せている野分の息が耳にかかってこそばゆい。
抵抗する事もままならず、重ねられた野分の手に導かれるように、短冊に願い事が書き込まれる。
『ずっと一緒にいられますように 弘樹 野分』
…………なんなんだ。この甘ったるい願い事は……。
こんな事を書くのは、頭の中がお花畑のバカップルくらいしかいないだろう……。
こんなものを書いてしまった自分の手を恨む。
「……ちょっと待て。これ、まさか病院の七夕飾りにつけるつもりじゃないだろうな…?」
「そのつもりですけど?」
「ふざけんな!こんな、名前が書かれたこっ恥ずかしいもん、持って行くんじゃねー!」
「だって、飾らないと願い事は叶わないです。大丈夫。俺、笹飾りの一番高い所につけますから、誰にも見えないですよ」
一番上なんて、一番目立つじゃないか…。笹を片付ける時や、風に飛んで行ったりして誰かの目に触れたりしたら、と考えただけで心臓に悪い。
「却下だ、却下!」
満足げな野分が手の力を弱めた隙をついて、短冊を取り上げてしまおうと試みた。
しかし、簡単に手首を捕らわれ、深いキスを落とされる。
野分は、ずるい。
こんなキスをされたら、俺がもう何も考えられなくなってしまう事を、絶対知っているに違いない。
「ダメですよ。これは俺が責任を持って、飾って来ます」
熱に浮かされたような心持ちになりながら、野分の言葉を耳元で感じる。
「ぜってー…持って行かせねー…」
かろうじて残っている理性で抵抗するが、言葉にも体にも力が入らない。
「ちゃんと飾りますから、願い事、叶えましょうね」
抱きしめられ、ちょっと高めの甘い声に包まれる。
悔しい事に、敗北が決定した俺に出来た事は、
『あんな物を飾って、願いが叶わなかったら、承知しねえ…』
などと、思う事だけだった。
Fin
--
いつもながらの野分完全勝利。
この短冊がつもりんに見つかったりしたら、また面白い事になりそうです。
「いや、別にいいけど…。何やってんだ?」
野分は、折り紙で折られた星を手に持っている。
「もうすぐ七夕だから、病棟の子供達と七夕飾りを作るんですよ。その準備です」
「ああ、そういやもう七月か」
子供の頃は、庭に大きな笹があって、毎年それを切って飾りを付けたりした。大人になってからは縁のない行事になってたので、気にも留めていなかった。
「これは?」
長方形の紙が何枚も重ねられているのを一枚手にとって尋ねる。
「短冊です。みんな、願い事を何するか、今から楽しそうに考えてるんですよ」
入院中の子供達の事を語る野分の瞳は、優しさをたたえている。病気の子供達が、このような行事で少しでも元気になってくれるのが嬉しいのだろう。
「あ、そうだ。短冊いっぱいありますから、ヒロさんも願い事書きましょうよ」
「はあ?そんなガキみたいな事できるかっ」
俺はそんなガラじゃないだろう。それに、願い事なんて思い付かない。
「願い事は何でもいいんですよ。ほら」
まっさらな短冊とペンを押し付けられたが、願い事などと言われても本当に何も浮かばない。
「別に願い事なんてねえよ。書きたきゃ、お前だけ書けばいいだろ」
冷たい物言いのようだが、願い事を強制されてはかなわない。少し強めに言ったから、流石に野分も諦めるだろう。そこまでしてやらせる程のものでもないはずだ。
しかし、一瞬の逡巡の後、野分が言い放った言葉は、俺の予想を越えていた。
「わかりました。じゃあ、一緒に書けばいいんです」
「一緒にって…」
「二人で書けば、二人の願い事ですよね」
野分が何を言っているのか分からずに固まってしまった俺の背後に、野分が回り込む。背中から抱きしめられるような格好で、野分の手が、ペンを持っている俺の手に重ねられる。
「…てめっ…何やってんだ!くっつくな!」
重ねられた手の温かさと、背中に感じる野分の体温のせいで、落ち着きをなくしてしまう。体を離そうともがくが、力では野分に敵わない。
「ヒロさん、暴れないで下さい。字が書けません」
「……アホっ!耳元で喋んなっ!」
無意識なのか、ワザとなのか、顔を寄せている野分の息が耳にかかってこそばゆい。
抵抗する事もままならず、重ねられた野分の手に導かれるように、短冊に願い事が書き込まれる。
『ずっと一緒にいられますように 弘樹 野分』
…………なんなんだ。この甘ったるい願い事は……。
こんな事を書くのは、頭の中がお花畑のバカップルくらいしかいないだろう……。
こんなものを書いてしまった自分の手を恨む。
「……ちょっと待て。これ、まさか病院の七夕飾りにつけるつもりじゃないだろうな…?」
「そのつもりですけど?」
「ふざけんな!こんな、名前が書かれたこっ恥ずかしいもん、持って行くんじゃねー!」
「だって、飾らないと願い事は叶わないです。大丈夫。俺、笹飾りの一番高い所につけますから、誰にも見えないですよ」
一番上なんて、一番目立つじゃないか…。笹を片付ける時や、風に飛んで行ったりして誰かの目に触れたりしたら、と考えただけで心臓に悪い。
「却下だ、却下!」
満足げな野分が手の力を弱めた隙をついて、短冊を取り上げてしまおうと試みた。
しかし、簡単に手首を捕らわれ、深いキスを落とされる。
野分は、ずるい。
こんなキスをされたら、俺がもう何も考えられなくなってしまう事を、絶対知っているに違いない。
「ダメですよ。これは俺が責任を持って、飾って来ます」
熱に浮かされたような心持ちになりながら、野分の言葉を耳元で感じる。
「ぜってー…持って行かせねー…」
かろうじて残っている理性で抵抗するが、言葉にも体にも力が入らない。
「ちゃんと飾りますから、願い事、叶えましょうね」
抱きしめられ、ちょっと高めの甘い声に包まれる。
悔しい事に、敗北が決定した俺に出来た事は、
『あんな物を飾って、願いが叶わなかったら、承知しねえ…』
などと、思う事だけだった。
Fin
--
いつもながらの野分完全勝利。
この短冊がつもりんに見つかったりしたら、また面白い事になりそうです。
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無題
maiさま
今回も甘甘で素敵なお話ですね。
短冊はつもりんに見つかっちゃえばいいよ!!
そうは思うものの、きっと上條が野分君の目を盗んでかくして、
大量のエアメールと共に大事に保管しているんじゃないかと勝手に妄想してしまいました。
(スミマセン)
どちらにしても、上條は絶対に捨てられませんよね、この短冊。
時々出して眺めてみたり。
それを野分君に見つかって・・・
はい、妄想はこの辺にしておきます。本当に申し訳ありません!!
本当にmai様の描く二人の日常が大好きです。
今回も甘甘で素敵なお話ですね。
短冊はつもりんに見つかっちゃえばいいよ!!
そうは思うものの、きっと上條が野分君の目を盗んでかくして、
大量のエアメールと共に大事に保管しているんじゃないかと勝手に妄想してしまいました。
(スミマセン)
どちらにしても、上條は絶対に捨てられませんよね、この短冊。
時々出して眺めてみたり。
それを野分君に見つかって・・・
はい、妄想はこの辺にしておきます。本当に申し訳ありません!!
本当にmai様の描く二人の日常が大好きです。
無題
maiさまこんばんは!
いつも可愛くて素敵な作品楽しみにしていますw七夕の二人の甘さにやられました!
野分の天然反則技に今回もヒロさんが完敗していて思わず頬が緩んでしまいました。「願い事、叶えましょうね」と抱きしめる野分が大好きです。キスでめろめろになってるヒロさんも可愛すぎますww
つもりんに見つかりそうですね(笑)
真っ赤になって恥ずかしがってるヒロさんとニコニコ嬉しそうにしてる野分が目に浮かびます。
すっかりヒロさんの魅力にやられ毎日妄想の日々です・・・ヒロさんは人を狂わせる何かを持っている気がします。野分しかり、篠田さんや宮城教授もヒロさんの涙にくらっと来てましたから(笑)
これからも更新楽しみにしています!
失礼しました。
いつも可愛くて素敵な作品楽しみにしていますw七夕の二人の甘さにやられました!
野分の天然反則技に今回もヒロさんが完敗していて思わず頬が緩んでしまいました。「願い事、叶えましょうね」と抱きしめる野分が大好きです。キスでめろめろになってるヒロさんも可愛すぎますww
つもりんに見つかりそうですね(笑)
真っ赤になって恥ずかしがってるヒロさんとニコニコ嬉しそうにしてる野分が目に浮かびます。
すっかりヒロさんの魅力にやられ毎日妄想の日々です・・・ヒロさんは人を狂わせる何かを持っている気がします。野分しかり、篠田さんや宮城教授もヒロさんの涙にくらっと来てましたから(笑)
これからも更新楽しみにしています!
失礼しました。
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