GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
『雨音、雷鳴』と同じ話の野分視点バージョンです。どちらを先に読んでも大丈夫です。
* * *
今日は久しぶりに取れた休みだというのに、朝から天気が良くなかった。最初は少し雨が降っているだけだと思っていたのに、すぐに雨風が強くなり、夜になる頃には、雷が激しく鳴り響いていた。
こんな日は、わけもわからず不安になる。
こんな日に限って、ヒロさんが、いない。
俺は、台風の日に捨てられていたというから、その時の怖かった記憶が無意識に刻まれてしまっているのだろうか。外の天気が気になって、何をしていても気がそぞろで、何も手につかなくなってしまう。
いつもならもっと早い時間に帰って来るヒロさんなのに、夜10時を過ぎてもまだ帰って来ない。
(残業なのかな…。早く、ヒロさんに帰ってきて欲しい…)
リビングで一人、ソファに座り、周りの音をシャットアウトしようと努力してみたけど、雨の音は大きくなるばかりで、時間が経つにつれて不安ばかりが大きくなる。どこかへ逃げ出したいような衝動に駆られたその時、不安を掻き立てる音に混じって、待ち望んでいた音がした。玄関の鍵を、開ける音。
ヒロさんが帰って来た!
「おかえりなさい、ヒロさんっ」
「うおっ!?」
ヒロさんが帰って来た事にほっとして、嬉しさのあまり飛び出したら、ヒロさんを驚かせてしまったらしい。
「な、なんだお前!電気ぐらい点けろ!」
雨でびしょ濡れになっていたヒロさんにタオルを渡したけど、怒られてしまった。そういえば、もう部屋の中は真っ暗だったのに、電気を点ける事をすっかり失念していた。
「お前、飯は?」
「あ、そういえばまだ食べてないです」
夕飯を食べる事すら忘れていた。というか、今日一日どう過ごしたか記憶が曖昧だ。自分の事ながら、かなり追い詰められていたんだなぁと実感する。ヒロさんは帰って来てくれたけど、正直、まだ雷の音が気になる。
「野分、どうした?」
こういう時のヒロさんは鋭い。
「別に、何でもないですよ?」
雷が怖いだなんて恥ずかしいし、ヒロさんに心配を掛けたくもないので、平静さを装う。
「何でもないって顔じゃねーだろ」
「いえ、本当に…」
ヒロさんの追及をどうにかかわそうとしていたのに、タイミングの悪い事に窓の外が光り、鋭い雷の音がする。思わず、言葉を途切らせてしまった。
「雷が怖いのか?」
案の定、悟られてしまう。もう、意地を張っても仕方がないので素直に認めるしかない。
「………はい」
「雷そのものというより、この雰囲気が、少し、苦手です…」
子供みたいだ、と呆れられるかと思ったけど、じっと俺を見るヒロさんの表情は呆れとは違うみたいだ。こんな風にヒロさんに見つめられる事は少ないので、普段だったら嬉しい。でも、今みたいな状態の時に見られるのは恥ずかしい。なんて思っていたら、ヒロさんは視線を外して、キッチンに向かう。
「飯でも食ったら気も紛れるだろ」
ヒロさんは仕事帰りで疲れているのに申し訳ないと思いつつも、厚意に甘えて夕食を作ってもらってしまった。ヒロさんが作ってくれるならなんでもおいしいけど、今日は特にヒロさんが作ってくれた温かい料理が心に染みる。俺が食べている間も、一緒にいてくれるのが、嬉しい。
「飯食ったらさっさと寝るぞ。明日は晴れるらしいから、大丈夫だろ」
後片付けも終え、追い立てられるように寝る準備をさせられる。確かに、寝てしまえば雷雨の音も気にならなくなる。ヒロさんに言われるままに寝ようとした俺を待っていたのは、予期しない事だった。
「ほら、何やってんだ。寝るって言ったの、聞こえなかったか?」
ヒロさんは、俺の部屋のベッドに潜り込んで、空いてる隣のスペースをぽんぽんと叩く。俺もそこに寝ろという事らしいが、普段のヒロさんからは考えられない行動に驚いて、部屋の入り口で立ち止まってしまった。
「えーっと…。ヒロさん?」
「何だよ」
「そこ、俺の部屋ですよね…?」
思わず確認してしまうと、ヒロさんは眉間に小さな皺を寄せる。
「ああ、一人で寝る方がいいのか?だったら…」
「いいえっ!一緒に寝ます!」
本当に出て行ってしまいそうで、慌ててヒロさんの隣に潜り込む。折角ヒロさんが一緒に寝てくれると言っているのに、そんな機会を逃すわけにはいかない。
「お前さ、今まで別にこういう天気が苦手とか言ってなかったじゃないか」
優しく頭を撫でてくれるヒロさんの手と、くっついている体から伝わって来る温もりに安心する。
「そういえば、ヒロさんと一緒にいる時は平気でした。今日はヒロさんがなかなか帰って来なかったんで、ちょっと弱気になってしまったみたいです…」
前々からこんな天気の日は塞ぎこみがちだったけど、ヒロさんが側にいる時は、不思議と不安な気持ちが湧いてこなかった。
「ああ、人がいれば気が紛れるのか」
「人、じゃなくて“ヒロさん”です。ヒロさんは、俺にとって精神安定剤なのかもしれませんね。今だって、ヒロさんがいるからすごく安心しているんです」
ヒロさんがいてくれて、俺がどんなに心安らいでいられるか、ヒロさんは分かってない。ヒロさんだから、特別だという事を分かってもらいたくて、ぎゅっと抱きしめた。
「アホな事言ってないで、さっさと寝ろ」
言葉はぶっきらぼうだけど、俺の頭を撫でてくれる感触は、とても優しい。
今日のヒロさんは優しいので、ちょっと調子に乗ってお願いをしてみる。
「ヒロさんが、おやすみのキスしてくれたら寝ます」
「調子に乗んなっ!」
……叩かれてしまった。
残念ながら、お願いは聞き入れてもらえなさそうだ、と諦めかけたその時、額に触れる柔らかい感触…。
「ガキにはこれで充分なんだよ」
ヒロさんが、おでこにキスしてくれた。
口ではなく額というのがヒロさんらしい。子供をあやすようなキスだけど、愛情たっぷりのキスのような気がして、なんだか嬉しい。
明日になったら、きっともう大丈夫。だから、今だけは甘えさせて下さい。
Fin.
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お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。
ここ数日、私の中で黒わんこもえが来ております。
もちろん上條君は別格ですが、黒わんこが可愛すぎ・・・!
もちろん原因はmaiさまの書かれたお話ですv
そこ、俺の部屋ですよね?←この確認がはてしなく可愛い!!何か原作にありそうな感じがたまらなく私の心をくすぐるのですvv
文章から、耳と尻尾のついた野分君が想像出来てしまって、その耳と尻尾がおびえているから垂れちゃっててv
上條君に、今だけといわず、いつでも甘えてればいいんです!
もちろん黒い野分君も大好きなんですけどねv
ところで、maiさまはロマ・テロチームはかかれないのでしょうか?
こんなに素敵な文章とイラストなので、ロマ・テロも見てみたいなと思ったのですが・・・
いかがでしょう?
野分の事をちゃんと分かってる大人なヒロさんって良いですよね~。
本当に野分にとってヒロさんって精神安定剤みたいですね。でもヒロさんは野分といるとドキドキしちゃいますから、野分はヒロさんの精神安定剤にはなれませんね(笑)
最後にちゃっかり調子に乗るところが実に野分っぽいです。
もうこの二人は夫婦としか言いようがないですね。
でももう大丈夫ですよね。ヒロさんがいるから。
野分と弘樹が出会えて本当によかったと思います。
怖がる野分をしっかりと抱きしめて安心させてあげる弘樹がとてもカッコいいです。
切なくて、でも微笑ましくて最後には暖かい気持ちになりました。
野分は、ヒロさんから行動を起こされると、慣れてなくて一瞬固まっちゃうようなイメージがあります。嬉しいんだけど、びっくり!みたいな感じで…。ヒロさんと出会った頃の、猫っぽい感じがする野分も好きですが、最近ではわんこわんこしてますよね~。
ロマ・テロは、形に出来たらしたいな~とは思ってはいるのですが、読み込みが足りないせいか(エゴの読み返し率が異常なのです。笑)、なかなか頭の中でまとまりません。いつになるかは分かりませんが、書いてみたいという気持ちはあります!気長にお待ち頂ければ(^^;)。うなさんに読みたいと言ってもらえて嬉しかったので、意外と早く出来るかも?!
野分にとってのヒロさんは精神安定剤であり、回復薬でもあり、とにかくヒロさんがいれば野分パワー(笑)はすぐに回復ですよね。それとは反対に、ヒロさんは野分と一緒にいたらドキドキし過ぎちゃうから精神の安定とは程遠いですね(^^;)。むしろ、「(ドキドキするから)あっち行け!」とか心にもない事を言っちゃって、野分しゅんとする→「また野分を傷つけてしまった…」と後悔…のループに入りそうです。
ちゃっかり調子に乗って要求を通しちゃうのは、野分がおねだり上手なのか、ヒロさんが流され易いか…。多分両方です。