GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
2008'07.14.Mon
『明日、天気になぁれ』と同じ話のヒロさん視点バージョンです。どちらを先に読んでも大丈夫です。
* * *
今日は朝から荒れ模様の空だった。残業を片付け、大学を出たのは夜10時を回っていたが、その時間になっても天候は全く回復の兆しを見せず、それどころか雷まで鳴っていた。
傘を差しても吹き込んでくる雨に、ずぶ濡れになりながら家に辿り着く。鍵を開けてドアを開けたが、部屋の中は真っ暗だった。
(なんだ、野分いないのか…?)
確か今日は久しぶりの休みだと言っていたから、会えるのを少し(あくまでも少し、だ)楽しみにしていたのだが、緊急のヘルプが入ったのかもしれない。時間に関しては不規則過ぎる仕事だから仕方がないが、こんな雨の中大丈夫だろうか、と心配になったその時、いきなり動くものが視界に入った。
「おかえりなさい、ヒロさんっ」
「うおっ!?」
真っ暗な部屋の中から突然飛び出すように出て来た野分に驚いて、思わず声を上げる。
「な、なんだお前!いるなら電気ぐらい点けろ!」
かなりびっくりしてしまった事が恥ずかしくて、それを隠すように、怒ったような口調になってしまった。部屋の中に入って、電気を点け、野分が持って来てくれたタオルで濡れた体を拭いていたが、何か違和感を感じる。
「お前、飯は?」
「あ、そういえばまだ食べてないです」
食ってないって…一体今何時だと思ってるんだ。
「野分、どうした?」
違和感の原因は、野分が静か過ぎる事。いつもだったら、うるさい程にまとわりついて来るのに、今日はやけに静かだ。
「別に、何でもないですよ?」
取り繕ったような笑顔を向ける野分。こんな状態の野分は、危険だ。絶対、何か心の中に溜め込んでいるに違いない。
「何でもないって顔じゃねーだろ」
「いえ、本当に…」
野分が尚も否定しようとした時、窓の外が一瞬光り、雷が鋭く鳴った。
途端、野分の表情が強張る。こいつ、もしかして…。
「雷が怖いのか?」
「………はい」
普段は何を考えているのか分からない事も多いくせに、今日の野分は分かりやす過ぎる。観念して認めた表情に余裕がない。
「雷そのものというより、この雰囲気が、少し、苦手です…」
こいつは、飯を食うのも失念する位に怯え、真っ暗な部屋の中で俺が帰ってくるのをひたすら待っていたのか?
その事に気付き、残業なんかせずに早く帰って、こいつの側にいてやれば良かったと後悔の念が押し寄せる。
しかし、今更後悔しても仕方がないので、今出来る事をしてやるだけだ。
「飯でも食ったら気も紛れるだろ」
野分の為に簡単な夜食を用意してやり、食べさせる。普段は俺の事を“子供みたい”などとぬかす野分だが、俺に言われるままに食べ物を口に運んでいる姿は、子供そのもの。これが年上としてのあり方だよな、と少し悦に入ったりする。
「飯食ったらさっさと寝るぞ。明日は晴れるらしいから、大丈夫だろ」
まだ窓の外では風が轟々と唸り声をあげ、雨は窓を激しく叩いている。天気予報によると、この雷雨は今晩中に通り過ぎてしまうと言っていたので、苦手ならば寝てしまうのが得策だ。
「ほら、何やってんだ。寝るって言ったの、聞こえなかったか?」
寝る支度を整え、ボーっと突っ立ってる野分に声を掛ける。
「えーっと…。ヒロさん?」
「何だよ」
「そこ、俺の部屋ですよね…?」
野分は、俺が勝手に野分のベッドに入り込んでいる事が不思議でならないらしい。まあ、普段、俺の方から一緒に寝ようなどとは言わないから、そう思うのも無理はないだろう。
今日は、特別だ。こんな不安そうにしている野分を一人で寝かせるわけにはいかない。
「ああ、一人で寝る方がいいのか?だったら…」
「いいえっ!一緒に寝ます!」
わざと意地悪く言ってみると、慌てて野分も布団に潜り込んで来た。
「お前さ、今まで別にこういう天気が苦手とか言ってなかったじゃないか」
安心させるように、頭を撫でながら聞いてみる。今まで一緒に暮らして来て、台風の日なんていくらでもあったと思うが、今日のように雷雨に怯える野分を見るのは初めてだ。
「そういえば、ヒロさんと一緒にいる時は平気でした。今日はヒロさんがなかなか帰って来なかったんで、ちょっと弱気になってしまったみたいです…」
「ああ、人がいれば気が紛れるのか」
「人、じゃなくて“ヒロさん”です。ヒロさんは、俺にとって精神安定剤なのかもしれませんね。今だって、ヒロさんがいるからすごく安心しているんです」
野分がぎゅうっと抱きついて来る。普段とは逆に、俺が野分を抱きかかえるような形になっているので、野分のさらさらの髪が顔に当たってくすぐったい。本当に、今日の野分は子供みたいだ。日頃、俺の事を「可愛い」などと言うが、お前の方が充分可愛いじゃねーか…。
「アホな事言ってないで、さっさと寝ろ」
初めて会った時に野分が俺にしてくれたように、頭をくしゃりと撫でてやる。
「ヒロさんが、おやすみのキスしてくれたら寝ます」
「調子に乗んなっ!」
さっきまで優しく撫でていた手で、ポカリと頭を叩く。こいつは…。少し甘やかすとこれだ。
「ガキにはこれで充分なんだよ」
野分の額に、軽く触れるようなキスをする。今日は少し甘やかし過ぎのような気もするが、子供のような野分を見ていると、まあ、たまにはいいだろうなどと思ってしまった。
Fin.
--
野分を甘やかそう計画(笑)。ヒロさんは、なんだかんだで野分のお願いする事は聞いてくれるから優しいですよね。
お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。
今日は朝から荒れ模様の空だった。残業を片付け、大学を出たのは夜10時を回っていたが、その時間になっても天候は全く回復の兆しを見せず、それどころか雷まで鳴っていた。
傘を差しても吹き込んでくる雨に、ずぶ濡れになりながら家に辿り着く。鍵を開けてドアを開けたが、部屋の中は真っ暗だった。
(なんだ、野分いないのか…?)
確か今日は久しぶりの休みだと言っていたから、会えるのを少し(あくまでも少し、だ)楽しみにしていたのだが、緊急のヘルプが入ったのかもしれない。時間に関しては不規則過ぎる仕事だから仕方がないが、こんな雨の中大丈夫だろうか、と心配になったその時、いきなり動くものが視界に入った。
「おかえりなさい、ヒロさんっ」
「うおっ!?」
真っ暗な部屋の中から突然飛び出すように出て来た野分に驚いて、思わず声を上げる。
「な、なんだお前!いるなら電気ぐらい点けろ!」
かなりびっくりしてしまった事が恥ずかしくて、それを隠すように、怒ったような口調になってしまった。部屋の中に入って、電気を点け、野分が持って来てくれたタオルで濡れた体を拭いていたが、何か違和感を感じる。
「お前、飯は?」
「あ、そういえばまだ食べてないです」
食ってないって…一体今何時だと思ってるんだ。
「野分、どうした?」
違和感の原因は、野分が静か過ぎる事。いつもだったら、うるさい程にまとわりついて来るのに、今日はやけに静かだ。
「別に、何でもないですよ?」
取り繕ったような笑顔を向ける野分。こんな状態の野分は、危険だ。絶対、何か心の中に溜め込んでいるに違いない。
「何でもないって顔じゃねーだろ」
「いえ、本当に…」
野分が尚も否定しようとした時、窓の外が一瞬光り、雷が鋭く鳴った。
途端、野分の表情が強張る。こいつ、もしかして…。
「雷が怖いのか?」
「………はい」
普段は何を考えているのか分からない事も多いくせに、今日の野分は分かりやす過ぎる。観念して認めた表情に余裕がない。
「雷そのものというより、この雰囲気が、少し、苦手です…」
こいつは、飯を食うのも失念する位に怯え、真っ暗な部屋の中で俺が帰ってくるのをひたすら待っていたのか?
その事に気付き、残業なんかせずに早く帰って、こいつの側にいてやれば良かったと後悔の念が押し寄せる。
しかし、今更後悔しても仕方がないので、今出来る事をしてやるだけだ。
「飯でも食ったら気も紛れるだろ」
野分の為に簡単な夜食を用意してやり、食べさせる。普段は俺の事を“子供みたい”などとぬかす野分だが、俺に言われるままに食べ物を口に運んでいる姿は、子供そのもの。これが年上としてのあり方だよな、と少し悦に入ったりする。
「飯食ったらさっさと寝るぞ。明日は晴れるらしいから、大丈夫だろ」
まだ窓の外では風が轟々と唸り声をあげ、雨は窓を激しく叩いている。天気予報によると、この雷雨は今晩中に通り過ぎてしまうと言っていたので、苦手ならば寝てしまうのが得策だ。
「ほら、何やってんだ。寝るって言ったの、聞こえなかったか?」
寝る支度を整え、ボーっと突っ立ってる野分に声を掛ける。
「えーっと…。ヒロさん?」
「何だよ」
「そこ、俺の部屋ですよね…?」
野分は、俺が勝手に野分のベッドに入り込んでいる事が不思議でならないらしい。まあ、普段、俺の方から一緒に寝ようなどとは言わないから、そう思うのも無理はないだろう。
今日は、特別だ。こんな不安そうにしている野分を一人で寝かせるわけにはいかない。
「ああ、一人で寝る方がいいのか?だったら…」
「いいえっ!一緒に寝ます!」
わざと意地悪く言ってみると、慌てて野分も布団に潜り込んで来た。
「お前さ、今まで別にこういう天気が苦手とか言ってなかったじゃないか」
安心させるように、頭を撫でながら聞いてみる。今まで一緒に暮らして来て、台風の日なんていくらでもあったと思うが、今日のように雷雨に怯える野分を見るのは初めてだ。
「そういえば、ヒロさんと一緒にいる時は平気でした。今日はヒロさんがなかなか帰って来なかったんで、ちょっと弱気になってしまったみたいです…」
「ああ、人がいれば気が紛れるのか」
「人、じゃなくて“ヒロさん”です。ヒロさんは、俺にとって精神安定剤なのかもしれませんね。今だって、ヒロさんがいるからすごく安心しているんです」
野分がぎゅうっと抱きついて来る。普段とは逆に、俺が野分を抱きかかえるような形になっているので、野分のさらさらの髪が顔に当たってくすぐったい。本当に、今日の野分は子供みたいだ。日頃、俺の事を「可愛い」などと言うが、お前の方が充分可愛いじゃねーか…。
「アホな事言ってないで、さっさと寝ろ」
初めて会った時に野分が俺にしてくれたように、頭をくしゃりと撫でてやる。
「ヒロさんが、おやすみのキスしてくれたら寝ます」
「調子に乗んなっ!」
さっきまで優しく撫でていた手で、ポカリと頭を叩く。こいつは…。少し甘やかすとこれだ。
「ガキにはこれで充分なんだよ」
野分の額に、軽く触れるようなキスをする。今日は少し甘やかし過ぎのような気もするが、子供のような野分を見ていると、まあ、たまにはいいだろうなどと思ってしまった。
Fin.
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野分を甘やかそう計画(笑)。ヒロさんは、なんだかんだで野分のお願いする事は聞いてくれるから優しいですよね。
お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。
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