GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
* * *
キスを、しよう。
最近、野分がまた疲れている。
相変わらず二人共仕事が忙しく、何日も顔を合わせない日が続く事もザラだ。
野分は、俺に会う時間をなんとか作ってくれようとしているが、一緒にいる時も、疲れを隠せていない。
『ヒロさんに、キスしてもらえるだけで元気になれます』などとバカな事を言っている野分。
前に『出血大量閉店大サービス』などと言ってしまったが、そんな事で野分の元気を取り戻せるのなら、キスくらいしてやるのがオトナの余裕というものだろう。
と、考えたまでは良かったのだが…。
(きっかけが…掴めねえ…)
普段、自分からキスする事などないので、変に身構えてしまう。
野分は、いつもどうやって俺にキスする?
俺は、どうやってキスされたら嬉しい?
今日は折角、二人で家にいる時間が取れたというのに、頭の中はその事でいっぱいで、結果、話し掛けてくる野分にも曖昧な返事しか返せなくなっている。
「ヒロさん、大丈夫ですか?」
「え?」
「心ここにあらずといった感じで…。疲れているんじゃないですか?」
野分を元気づけようとしているのに、逆に心配されてしまった…。これでは本末転倒だ。
「あー…いや、大丈夫だ…。俺の事より、野分、ここに座れ」
「はい?」
野分を自分の目の前に座らせてみたはいいものの、野分を直視できない。
「…。」
「……。」
「…。」
「………。」
「あの…ヒロさん?本当に大丈夫ですか?」
真っ直ぐな瞳で顔を覗き込まれ、余計に固まってしまった俺は、思わず手元にあったクッションを野分の顔に押し付ける。
「うわっ。何するんですか?!」
これで、瞳に囚われないですむ。クッションで野分の顔の上半分を隠したまま、顔を近付けてキスをする。
野分の疲れが少しでも吹き飛ぶよう、想いを込めながら。
長い、長いキスをして唇を離す。
クッションをどけた野分は呆けたような顔をしていたが、すぐに満面の笑みを浮かべる。キスぐらい、いつもしているのに、何がそんなに嬉しいんだか。
「…お前…ほら、最近疲れが溜まってるだろ?前に、疲れた時はキスして欲しいとか言ってたから…。まあ、たまには、な…」
何を言い訳しているんだ、俺は。
「ありがとうございます。俺を心配してくれたんですね」
「ああ、まあ、そういう事になるかな…」
「ヒロさんのおかげで疲れが吹っ飛びました」
「それなら…、良かった。うん」
心底嬉しそうな野分の顔を見ていると、今更ながら、自分から仕掛けた事に対して恥ずかしさが込み上げて来る。
「やっぱり、ヒロさんは可愛いです」
「はぁ?!」
ガバッと抱きついてくる野分。元気になり過ぎたんじゃないのか?などと思いつつ、年上の余裕を見せるべく、頭を撫でてやる。
頑張っているお前は好きだけど、あんまり無理、するなよ。
Fin.