GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
2008'06.03.Tue
留学中、ヒロさんに会いたくなったら書いた手紙が数え切れない程ある。
ポストに入れられる事のないまま、手元に残った手紙。今更渡せるはずもなく、かと言ってヒロさんの名前を書いたものを捨てる事なんてできない。
無造作にカバンにしまい込んでそのままになっていたけど、ヒロさんと一緒に暮らす事になって、引っ越しの片付けをしている最中に、ヒロさん当人にその手紙を見つけられてしまったのは迂闊だった。
しかも、俺の目の前でその手紙を読むなんて、ヒロさんも意地が悪い。俺にだって、恥ずかしいと思う事はある。
あの頃は、ヒロさんに会いたい気持ちが強すぎて、その心の赴くままに、何度も「会いたい」としたためた。ヒロさんを想う気持ちに嘘はないけれど、時間が経ってから、ヒロさんへの溢れる想いを、文字という形で当人に知られるのは、やっぱりかなり恥ずかしい。
なのにヒロさんは、俺の手紙を抱えたまま返してくれない。最大の譲歩案として、その場で読んで、それで勘弁してもらおうとしたけど、それも却下されてしまった。
手紙の束をどこかに隠してきたヒロさんの顔が心なしか赤いのは、手紙を喜んでくれたからなのかと思うと、それは嬉しい。もらった宝物を誰にも分からない場所に隠しているみたいで、なんだか可愛い。
多分、もう手紙は返してもらえないから、ヒロさんに出したものとして諦めよう。
「大体、なんで今時エアメールなんだよ。理系学生ならパソコンのメールくらい使いこなせ!」
片付けの手を休め、二人で適当な場所に座って休憩していると、ヒロさんが文句を言ってきた。さっき、あんなに大切そうに手紙を扱っていた人とは別人のよう。
「手書きの方が、気持ちが伝わるような気がしたんで…」
「手で書いても、出さなきゃ伝わらねーんだよ」
パソコンのメールが使えないわけではなかったけど、それだとお手軽過ぎて、ヒロさんへの気持ちがちゃんと伝わらないと思っただけ。まあ、エアメールも出さなかったから、伝わっていない事に変わりはないので、ヒロさんの言う事は正しい。
「そうですね…。それでも、自分の手で、ちゃんと気持ちを伝えているという実感が欲しかったんです。それに、ヒロさんの名前を書く時、幸せな気持ちになれたから」
手紙の文面で『ヒロさん』と書いた時、そして、封筒の宛名に『上條弘樹様』と書いた時のなんともいえない高揚感は忘れられない。自分の気持ちを伝えたいと願うと同時に、遠い異国の空の下で、愛しい人が今、何をしているのかと思いを馳せた。
留学してから一度も連絡を取らなかった事が心苦しくなかったわけではない。俺のいない一年の間に、ヒロさんの心が俺から離れて行ってしまわないかという不安に押し潰されそうになった事も一度や二度ではなかった。
それでも、弱い心の俺が出来た事は、一字一句想いを込めながら手紙を書く事だけ。
「バーカ。恥ずかしい事言ってんじゃねーよ」
照れてそっぽを向くヒロさんも可愛い。
言葉ではこんなに簡単に気持ちが伝えられる。
「そうだ。ヒロさん、さっきのエアメールはヒロさんにあげますから、代わりに、俺も欲しい物があります」
「なんだよ?」
俺が何を言い出すのか少し不安そうなヒロさんに、重ねて言う。
「ヒロさんから、手紙が欲しいです」
「はぁ?!何で一緒に暮らすのに手紙なんか出さなきゃいけないんだ!」
「だって、ヒロさんから貰った手紙って、あの一通しかないですし…」
「お前に手紙なんて出した事あったっけ?…って、ああ、あれか…」
思い出して、気まずそうに目を泳がせるヒロさん。
今までにヒロさんが俺にくれた、たった一通の手紙は、俺を不幸のどん底に突き落とした不幸の手紙。『別れる』と一言だけ書かれたハガキに、俺がどれだけショックを受けた事か。つい最近の事なのに忘れているヒロさんも酷い。
「…まさかお前、あのハガキ今でもとってあるんじゃないだろうな?!」
「とってありますよ。ヒロさんから貰った物を、捨てられるわけないじゃないですか」
「ふざけんな!あんなもん捨てちまえ!」
「ヒロさんが新しい手紙をくれたら捨てます」
「なんでそうなるんだ!」
「手紙をくれないんなら、あのハガキも捨てませんし、さっきのエアメールも返してもらいます!」
ヒロさんに負けじと言い返す。甘い言葉なんて絶対口に出しては言わない人だけど、手紙という形にしたら、もしかしたら…なんて淡い期待を抱いてしまう。
俺だって、目に見える形での言葉が欲しいと思うのは、ワガママじゃないですよね?
「ぜってー書かないし、エアメールも返さないからな!」
徹底抗戦する構えを見せるヒロさん。
これは長期戦になりそうだけど、いつか、必ず書いてもらいますからね。
Fin.
--
野分の大検合格時に渡した花束につけたメッセージは手紙に入りませんよね?あのメッセージ一つであれだけ悩んだヒロさんの事だから、手紙なんか書けなさそうです。
お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。
あの頃は、ヒロさんに会いたい気持ちが強すぎて、その心の赴くままに、何度も「会いたい」としたためた。ヒロさんを想う気持ちに嘘はないけれど、時間が経ってから、ヒロさんへの溢れる想いを、文字という形で当人に知られるのは、やっぱりかなり恥ずかしい。
なのにヒロさんは、俺の手紙を抱えたまま返してくれない。最大の譲歩案として、その場で読んで、それで勘弁してもらおうとしたけど、それも却下されてしまった。
手紙の束をどこかに隠してきたヒロさんの顔が心なしか赤いのは、手紙を喜んでくれたからなのかと思うと、それは嬉しい。もらった宝物を誰にも分からない場所に隠しているみたいで、なんだか可愛い。
多分、もう手紙は返してもらえないから、ヒロさんに出したものとして諦めよう。
「大体、なんで今時エアメールなんだよ。理系学生ならパソコンのメールくらい使いこなせ!」
片付けの手を休め、二人で適当な場所に座って休憩していると、ヒロさんが文句を言ってきた。さっき、あんなに大切そうに手紙を扱っていた人とは別人のよう。
「手書きの方が、気持ちが伝わるような気がしたんで…」
「手で書いても、出さなきゃ伝わらねーんだよ」
パソコンのメールが使えないわけではなかったけど、それだとお手軽過ぎて、ヒロさんへの気持ちがちゃんと伝わらないと思っただけ。まあ、エアメールも出さなかったから、伝わっていない事に変わりはないので、ヒロさんの言う事は正しい。
「そうですね…。それでも、自分の手で、ちゃんと気持ちを伝えているという実感が欲しかったんです。それに、ヒロさんの名前を書く時、幸せな気持ちになれたから」
手紙の文面で『ヒロさん』と書いた時、そして、封筒の宛名に『上條弘樹様』と書いた時のなんともいえない高揚感は忘れられない。自分の気持ちを伝えたいと願うと同時に、遠い異国の空の下で、愛しい人が今、何をしているのかと思いを馳せた。
留学してから一度も連絡を取らなかった事が心苦しくなかったわけではない。俺のいない一年の間に、ヒロさんの心が俺から離れて行ってしまわないかという不安に押し潰されそうになった事も一度や二度ではなかった。
それでも、弱い心の俺が出来た事は、一字一句想いを込めながら手紙を書く事だけ。
「バーカ。恥ずかしい事言ってんじゃねーよ」
照れてそっぽを向くヒロさんも可愛い。
言葉ではこんなに簡単に気持ちが伝えられる。
「そうだ。ヒロさん、さっきのエアメールはヒロさんにあげますから、代わりに、俺も欲しい物があります」
「なんだよ?」
俺が何を言い出すのか少し不安そうなヒロさんに、重ねて言う。
「ヒロさんから、手紙が欲しいです」
「はぁ?!何で一緒に暮らすのに手紙なんか出さなきゃいけないんだ!」
「だって、ヒロさんから貰った手紙って、あの一通しかないですし…」
「お前に手紙なんて出した事あったっけ?…って、ああ、あれか…」
思い出して、気まずそうに目を泳がせるヒロさん。
今までにヒロさんが俺にくれた、たった一通の手紙は、俺を不幸のどん底に突き落とした不幸の手紙。『別れる』と一言だけ書かれたハガキに、俺がどれだけショックを受けた事か。つい最近の事なのに忘れているヒロさんも酷い。
「…まさかお前、あのハガキ今でもとってあるんじゃないだろうな?!」
「とってありますよ。ヒロさんから貰った物を、捨てられるわけないじゃないですか」
「ふざけんな!あんなもん捨てちまえ!」
「ヒロさんが新しい手紙をくれたら捨てます」
「なんでそうなるんだ!」
「手紙をくれないんなら、あのハガキも捨てませんし、さっきのエアメールも返してもらいます!」
ヒロさんに負けじと言い返す。甘い言葉なんて絶対口に出しては言わない人だけど、手紙という形にしたら、もしかしたら…なんて淡い期待を抱いてしまう。
俺だって、目に見える形での言葉が欲しいと思うのは、ワガママじゃないですよね?
「ぜってー書かないし、エアメールも返さないからな!」
徹底抗戦する構えを見せるヒロさん。
これは長期戦になりそうだけど、いつか、必ず書いてもらいますからね。
Fin.
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野分の大検合格時に渡した花束につけたメッセージは手紙に入りませんよね?あのメッセージ一つであれだけ悩んだヒロさんの事だから、手紙なんか書けなさそうです。
お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。
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