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純情エゴイストへの愛を散らかし中。

2024'11.23.Sat
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2008'06.29.Sun
二人で歩いている時に、野分がショーウィンドウの前で足を止めた。中に飾られているのは、夏物のワイシャツやネクタイなど。小洒落た感じのスーツ専門店らしい。
普段、野分はどちらかというとラフな格好の上に白衣を羽織っているようなので、ああいう服装に興味があるとは知らなかった。

「ちょっと見て行くか?」
野分に提案する。今日はどちらの仕事も早めに終わったので、外で待ち合わせて一緒に夕食をとった。あとは家に帰るだけだから、時間的には問題ない。
「お前もスーツを着なきゃいけない時もあるんだろ?でも、あれ、お前には細過ぎないか?」
野分が見ていたのはかなり細身のスーツ。体格がいい野分には着られないだろう。店に入るのを提案したのは、中に入れば、他にも種類があると思ったからでもある。

「あ、いえ…。あれ、ヒロさんに似合いそうだなーと思って」
「…………はあ?!」
コイツは、またふざけた事を言っている…。
確かに、野分が見ていたのは、俺が普段着ているようなもので、それならばあのサイズにも納得できる。
しかし、人が折角、野分のスーツを見てやろうとしているのに、俺に似合いそうだから見ていただと?野分が自分の服を吟味していると勝手に思い込んだのは俺なのだが、思惑が外れて腹が立って来た。

「俺は間に合ってるよ。見ねーんなら、帰るぞ」
ぶっきらぼうに言い放ち、ショーウィンドウの前を離れると、野分も慌ててついて来る。
「ああいうの、好みじゃなかったですか?俺、スーツとか着ないからよく分からなくて…」
「そういう意味じゃねえ…」
「?」
無性に腹が立つ理由は分かっている。
野分なら背が高いし、体つきもしっかりしてるから、スーツ姿も様になるだろう、などとあれこれ考えてしまった自分が恥ずかしいからだ。だから、これは八つ当たり以外の何物でもない事も分かっているが、野分のせいにして当たりながら、帰路についた。

* * *

3日後、また仕事が早く終わった日に、俺は一人でこの前の店の前にいた。
目的はただ一つ。野分にスーツを買ってやる事。あいつも、ちゃんとしたスーツを一着くらい持っておいた方がいい。自分の事を後回しにしがちな野分の事だから、放っておいたらいつまで経っても自分では買わないだろう。
だから、ここは年上である俺が気を使ってやらなければならないところだ、と自分に言い聞かせて、店内に足を踏み入れた。

店内は落ち着いた雰囲気で、普段行く店と変わりないので敷居は低い。バレンタインのチョコレートを買った時や、秋彦の例の小説を買う時に比べれば低すぎる程だ。
店員が話し掛けて来たので、人にあげるものを探しているのだと説明する。野分の背格好を告げ、合うものをいくつか出してもらって、似合いそうなものを吟味する。

「モデルさんみたいに背が高いんですね」
「モ…モデル…っ?!」
店員が口にした言葉びっくりする。
しかし野分は背は高いが、モデルという感じではない。
「いや…どちらかというとガッシリ逞しい感じで…」
野分の事を思い出しながら話していると、なんだか顔が熱くなってくる。落ち着け、俺…。たかが服一着買うだけで、心を乱してどうする。

スーツと一緒に、それに合いそうなシャツとネクタイも見繕い、プレゼント用としてラッピングしてもらう。それだけの事だったのに、店を出る頃には二時間も経っていた。普段自分が買わない型のものを、野分に似合うかどうか考えながら選ぶのは、頭も使ったが、楽しかった。
(あいつ喜ぶかな…)
プレゼントなど滅多にしない俺だが、たまに何かをあげると、野分は体いっぱいで喜びを表現してくれる。それが、嬉しい。

家に帰ると、野分はまだ帰っていなかった。少し拍子抜けしたが、帰ってないものは仕方がない。スーツ一式が入った箱をテーブルの上に置き、飯の支度でもするかと思ったその時、玄関の扉を開ける音がした。
「ただいまです」

さっきは帰っていない事にガッカリしたくせに、今は野分がいきなり帰って来た事に慌てふためいてしまう。
「お、おう。おかえり」
今更ながら、なんと言って渡すか考えていなかった事に気付いたが、部屋に入って来た野分はテーブルの上の箱を見つけてしまった。

「……お前にやる」
不思議そうに箱を見つめる野分に掛けた言葉は、おおよそプレゼントを贈る時に言う台詞には似つかわしくないものだった。
こう、もっと言い方があるだろう、と自分でも思うが、変に意識し過ぎてしまったせいで、冷静に振る舞えない。

「え…?俺にですか?」
何か特別な日でもないのに、いきなりプレゼントを押し付けられた野分は、驚いた顔をしながらも包みを開ける。
箱の中から現れたスーツに、更に目を丸くする野分。
「これ…」
「いい歳なんだから、きちんとした物を一着くらい持っとけ」

「ありがとうございます!早速着てみますね!」
野分はいつもの、見ているこっちが嬉しくなってしまうような笑顔を浮かべる。
家に帰って来たばかりだというのに、スーツに袖を通さなければいけないのは可哀想な気がしたが、当の本人が嬉しそうにしているから、まあいいだろう。

「どうですか?」
「ああ、サイズも大丈夫みたいだな」
着替え終わった野分に、スーツはとてもよく似合っていた。
下手すれば俺よりも貫禄がある事に気付いて、軽く凹む。

「嬉しいです。大事にしますね」
それでも、にこにこと嬉しそうな笑みを浮かべると、途端に子供っぽい顔になる。嬉しさをストレートに表現されて、こちらが気恥ずかしくなってしまう。

「飯にするから着替えて来い」
「ヒロさん」
「ん?…っ…」
名前を呼ばれて振り向くと、キスをされる。
長くて深い、とろけてしまいそうな、キス。

「な…んだ…っ。いきなり…!」
唇が解放され、自分の顔が赤くなってしまっているのを自覚しながらも、目の前にある野分の顔を睨みつける。
「本当に嬉しかったんです。今は、お返しできるものがこれくらいしかないから」
「べっ…別に、お返しなんていらねぇよ…」
野分の、漆黒の瞳に吸い込まれそうになる。
「それじゃあ俺の気が済みません」
ぎゅっと抱きしめられ、再び、優しいキスを落とされる。

スーツがシワになってしまうだろうが、と心の中で悪態をつきながら、俺もそっと野分の背中に腕を回した。

Fin

--
こないだ買い物に行った時に、ヒロさんに似合いそうなワイシャツが飾られてる、ちょっとお洒落な感じのお店があったんです。そんなところからこの話ができました。
野分は、服装にあまりこだわりがなさそうだから、就職時にコ○カとかでとりあえず一着買ってあるだけ、みたいなイメージです。ヒロさんはお洒落な専門店で買ってそうな感じ。篠田さんに眼鏡の話した時、こだわりがあるみたいな事を言ってたのは嘘じゃないんじゃないかなーと。
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野分がかわいいです
maiさん

たびたびです。

こちらも良いですね~。

野分の

「本当に嬉しかったんです。今は、お返しできるものがこれくらいしかないから」

ってセリフがかわいいです。なんか、照れました。(←なぜ?)

とはいえ、いつもキスしてるんじゃないんですかー?って、野分に訊いてみたい気もしますが。

そうしたら、

「ええ、ハイ それはそうなんですけど。そこはやっぱり ハイ」

って、にこーって笑うのでしょうか?(ヒロさん相手じゃなきゃわらってくれないかな?)

またまた、次も楽しみにしていますね。





野分のスーツ姿は、

rie: 2008.06/29(Sun) 14:09 Edit
>rieさん
いつも沢山コメントありがとうございますvv

確かに、キスはいつもしてますね(笑)。野分にとっては、きっとどのキスも全部違う意味合いを持ってるものなのかも…?

「ええ、ハイ それはそうなんですけど。そこはやっぱり ハイ」
↑この台詞可愛いですよね~!大好きです。笑顔でこんな事言われちゃったら、ヒロさんじゃなくても撃沈しちゃいます。あの笑顔を引き出せるのはヒロさんしかいなそうですが(^^;
mai: 2008.06/29(Sun) 21:20 Edit
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