GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
『……ヒロさん?』
他大学の教授に電話を掛けたつもりだったのに、応答したのは、何故か野分の声。
不意打ちで聞こえて来た声に、心臓が跳ね上がる。
お互い忙しくて、最近ちっとも会えていないので、会いたいと思うあまり、幻聴が聞こえたのかと一瞬思ってしまう。
『もしもし?ヒロさんですよね?』
しかし、幻聴でも何でもなく、電話の向こうには野分が確かにいる。単純に、掛け間違ってしまったらしい。
「すまんっ!間違えた!他の大学の教授に電話したつもりだった…。仕事中なのに悪い」
野分はもう一週間近く家に帰って来ていない。俺も学会の準備で慌ただしい生活を送っていたので、かれこれ二週間はゆっくり話す事すらしていないのではないだろうか。
病院に詰めっきりの野分が心配で、何度か電話をしてみようと思った事もあったが、野分は不規則な生活だし、もし寝ているところを邪魔してしまったら…などと考えてしまい、結局携帯を見つめるだけで終わってしまっていた。
この間違い電話は、もしかしたら、一歩を踏み出せない俺の為に、神様がプレゼントしてくれたものなのかもしれない、などとガラにもない事まで考えてしまう。普段は、宇宙人はいても神なんかいない、と思っているような人間のくせに、我ながら現金だと思う。
『丁度休憩中だったから平気です。それに、久しぶりにヒロさんの声が聞けて嬉しいです』
「アホな事言ってないで、仕事に戻れ!」
…違う。こんな事が言いたい訳ではない。
野分の声は弾んでいて、例え間違い電話でも、俺なんかからの電話を本当に喜んでくれているのが分かる。
俺だって、嬉しい。久しぶりに耳元で聞く野分の柔らかい声は心地良くて、会いたい気持ちが募ってしまう。だが、“嬉しい”“会いたい”などと素直に言えないのが、俺という人間で、それは嫌という程自分でも分かっていて…。
「あんまり、無理すんなよ」
結局、無難な台詞しか出て来ない。
『はい。ヒロさんの声聞いたら元気出ました。…でも、本当は早くヒロさんに会いたいです』
……本当に、野分には敵わない。どうしていつも、いとも簡単に俺の気持ちを汲み取ってしまうのだろう。野分は、俺がそういう事を言わない事も承知で、言ってくれている。
そして、俺はまた、野分のその優しさに甘えてしまう。
『多分、明日には帰れると思いますから』
「おう、そうか…。じゃあ、切るぞ。仕事中、悪かったな」
『はい、ヒロさんも無理しないで、ちゃんと寝て下さいね』
自分の方が大変なくせに、こんな時まで俺の体を心配している。もっと野分の声を聞いていたかったが、いつまでも話しているわけにも行かないので、通話を切る。
「じゃあな」と言って通話を切った後も、耳の熱さはしばらく消えなかった。
野分、早く帰って来い。
俺だって、お前に会いたい。
携帯を握り締め、祈るように、そう思った。
Fin
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先日、一年以上連絡を取っていなかった父から間違い電話が掛かって来まして、その辺りからこんな話ができました。
ヒロさんは仕事中なので、一部始終を宮城に聞かれていて、「熱いね~」と後でからかわれます(笑)。
相変わらずのストーカーっぷりで申し訳ないです・・・
けど、続きを妄想するとついついコメントの書き込みをしてしまいます!
上條君サイドの続きはmaiさまのおっしゃるとおりだとして、
野分君サイド。きっと8巻Ego/act12の「家帰ったらいっぱいしましょうね?」の顔で、携帯をしまう野分君。
つもりんにからかわれるも、いつの間にかノロケに変わっていて(黒わんこ最強!)
そんな恋をしている野分君を羨ましく思うつもりん。
って、いつの間にかつもりん話になって・・・
続きはM大編でお願いします。(つもりんがからむ話、私は大好物です!)
maiさまのお話はいつもいつも暖かさが漂っていて、大好きですv