ロマSS『想いを伝えて』

初ロマＳＳです。

ウサギさんは、時々、見ているこっちが切なくなるような瞳で俺を見つめる。

＊ ＊ ＊

「タバコが切れたから、買ってくる」
仕事で篭もっていたウサギさんが部屋から出て来たので、仕事が片付いたのかと思ったら、タバコ切れらしい。今回はそんなに酷い修羅場ではないけれど、締切り前で憔悴し切っている事には変わりないウサギさんを見ると、少しでも何か手伝いたいと思う。
「あ、俺買ってくるよ。丁度コンビニ行こうと思ってたし」
「……いい。危ない」
「危ないって…。俺、子供じゃないんだから、おつかいくらいできるって」
「それに、未成年にはタバコ売ってくれないだろ」
「あ……」
そうだった。もうこの時間では自販機でも売っていない。ウサギさんの力になってあげたいと思うのに、いつも自分の力不足を思い知らされる。
「何か必要なら買ってくるが？」
その上、逆にウサギさんに気を使わせてしまっている。
ウサギさんのタバコを買いに行く口実になればいいと思っただけで、別に、今すぐに必要な物があるわけではなかった。
「お、俺も一緒に行く！何を買うかは見てから決めたいし！」
「なんだそれは…。別にいいけど」
俺一人では、タバコが買えない。だけど、疲れているウサギさんだけを買い物に行かせるのは、何だか自分がとても情けなく感じてしまう。だから、俺の頭で精一杯考えて出た結論は、一緒に行けばいいという事。
かくして、日付も変わろうという時間に、二人で連れ立って近所のコンビニに行く事になってしまった。

コンビニで買い物を済ませて、家に帰る途中に空を見上げると、星が輝いていた。
「おおーっ。ほら、ウサギさん、星きれーだよ」
「星なんて別に珍しくないだろ」
「そんな事ないよ。都内でこれだけ見られるのなんて、あんまりないって」
ウサギさんとの深夜の散歩に少しテンションが上がっているらしい俺は、見上げた星空に輝く星達に軽く感動して、はしゃいでしまう。後ろを歩いていたウサギさんが、そんな俺に「前を見て歩け」とか「気を付けろ」とか声を掛けてくれていたのは知っていたけど、“平気平気”と軽くあしらっていた俺は、気付くと知らない道に一人で迷い込んでいた…。

周りを見ても、全く知らない家ばかり。ずっと上を見ながら歩いていたので、振り返ってもどの道を通って来たか分からない。
ウサギさんの姿も見えない。静かな住宅街の中で一人ぼっちな事に軽いパニックを起こして、取りあえず道を戻ろうとした時、角を曲がって来たウサギさんの姿が見えた。

「何やってるんだ、美咲」
「ウサギさん！」
ひょいと現れたウサギさんは、呆れ顔で俺を見ている。
「アハハ…ちょっと道間違っちゃってさー」
ウサギさんが見つけてくれた安堵感に、うっかり泣きそうになってしまったのを隠す為にわざと明るく振る舞う。家の近所で迷子になって泣いちゃいました、なんて、大学生としてあり得ない。

つかつかと近付いて来たウサギさんは、そのまま俺の手を取った。
「な、何…？」
「お前は、目を離すとやっぱり危ない」
「大丈夫だってば！今はちょっと間違った道に入っちゃっただけだし！」
そのまま俺の手を掴んで歩き出すウサギさん。いくら夜中だといっても恥ずかし過ぎる。
「離せよっ。ちゃんと一人で歩けるから…っ！」
手を振り解こうとしても、しっかりと掴んで、離してくれない。それが余計に恥ずかしくて、喚きながら手を振り回していると、ウサギさんは立ち止まって振り返り、心地良く響く低音で、俺の名前を呼ぶ。

「美咲」

なんだよ…。なんでそんなに切なそうな目をしてるんだよ…。
ウサギさんがたまに見せるこの表情に、俺はとても弱い。
そして、ウサギさんがこんな顔をするのは、俺の前だけだと知ってしまっているわけで…。
「……………はい」
悪態をつく事ができなくなった俺は、素直に返事をするしかなかった。

「美咲がいなくなってしまわないか、心配なんだよ」
ウサギさんは過保護過ぎる。
家の近所でいなくなるも何もないのに、本気で心配している。
「俺は、俺の目の前から美咲が消えてしまうのが、嫌だ」
ちょっと道に迷っただけで、なんでこんなに壮大な話になってるんだ？と思いつつ、掴まれた手の強さと、ウサギさんの顔を見ていると、ウサギさんを安心させてあげたくなる。

指を絡ませて、手を繋ぎ直す。一瞬驚いたような顔したウサギさんに、自分の真っ赤になってる顔を見られたくなくて、今度は俺がウサギさんの手を引いて歩く。

“俺はどこにも行かないよ”と、繋いだ手から伝わればいいと思った。

 Fin.

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ウサギさんが『美咲』と切なげに呼ぶと、こっちまできゅーんと切なくなります。ロマは切な萌え。