GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
2008'10.15.Wed
日曜日の朝。
前日の夜にカーテンをきちんと閉めていなかったらしく、隙間から太陽の光が注ぎ込むのを微睡みの中で感じる。
前日の夜にカーテンをきちんと閉めていなかったらしく、隙間から太陽の光が注ぎ込むのを微睡みの中で感じる。
昨日も野分は帰って来なかった。
もしかしたら夜中に帰ってくるかも、とかすかな期待を抱いて、今日が休みなのをいい事にダラダラと本を読みながら夜更かししてしまったので、まだ寝足りない。
そのまま再度深い眠りに落ち掛けた時、リビングの方で何か物音がしたような気がした。のそのそとベッドを這い出し、リビングに続く扉を開けると、野分がいた。
ソファの上に無造作に上着とバッグが置かれているので、帰って来たばかりのようだ。
キッチンに立つ野分は俺が起きて来た事に気付いていない。
「野分」
「あ…ヒロさん。おはようございます」
「おはよ。…お帰り」
「ただいまです。起こしちゃいましたか?すみません」
「いや、別にいい」
こんな何気ない会話を交わすのも久しぶりで、野分の柔らかい声音が心地良く響く。
「俺、着替え取りに来ただけなんで、またすぐに出なきゃならないんです」
ああ、そうなのか…。
野分の言葉に思った以上に落胆する。
「少し時間あるからヒロさんの朝ご飯だけでも作って出ようかと思ったんですけど…」
「バーカ。お前まだ仕事中なんだろ。俺のメシの事なんか気にすんな」
こいつは、夜勤明けで疲れているだろうに、自分の事は後回しにして俺の事を心配する。そんな事する暇があるなら少し休みやがれ。
「メシの支度、俺も手伝うからお前も食ってけ」
二人で準備すれば少しは早くできる。休日を一緒に過ごせないのならば、朝食位付き合わせてやる、と拗ねたガキのように心の中で毒づいた。
普段から会話が多い方ではないので、朝食を食べる間もさほど言葉は交わされない。それでも、野分がここにいるだけで、朝の光が差し込むリビングが更に柔らかい空気に包まれているような気分になる。
しかし、そんな優しい時間もいつまでも続かない。
「野分、時間平気か?」
「そろそろ出ないと間に合いませんね…」
俺が半ば強引に引き止めたような感じだったのに、お前が名残惜しそうにしてどうする。野分のそんな表情を見てしまうと、『行くな』と言ってしまいそうな自分が怖い。
「片付けはやるから、お前はさっさと行け」
だから、本心を隠し、野分に上着とバッグを押し付けて玄関まで追い立てる。
「それじゃあ、行ってきます」
玄関で見送る俺の顎を軽く上げて、まるで当然のようにキスをする。
行ってきますのキスなんてこっ恥ずかしいものはやめろと何度も言ったのに、聞く気はないらしい。
軽いキスをして、二人の顔が離れた後も野分は何故か出掛ける素振りを見せずに俺の顔をジーッと見ている。
「何。早く行けよ」
キスされてただでさえ顔が赤くなっているのに、見つめられて更に頬が火照るのを感じる。何を考えているんだ、こいつは!
「えっと…。ヒロさんが離してくれないと行けません」
「は…?」
困惑したような表情の野分が視線を落とした先を見ると、野分のシャツの裾を掴む、俺の手。
「うわあああっ!?」
慌てて手を離す。いつの間に掴んでたのか全く覚えがない。
無意識のうちに掴んでいたなんて質が悪い…。
「いや…っ、これは違うからなっ!お前に行って欲しくないとかではない!断じて違うぞ!!」
「ヒロさん…」
「なんだその幸せそうな顔は!さっさと仕事に行けと言ってるだろーが!」
言葉を発すれば発する程、墓穴を掘っているような気がして、恥ずかしさを誤魔化す為に怒鳴り散らす。
野分はそんな俺の腰を片手で引き寄せ、さっきよりも深いキスを落とす。
もう片方の手は俺の指に絡められ、野分の掌の熱を感じる。
流されてしまいそうになった時、不意に野分の顔が離れる。
物足りなく感じてしまうが仕方ない。野分はまだ仕事があるのだ。
それでも、腰に回された腕はそのままで、いつもの黒目がちな瞳で俺を見下ろす野分。
「ヒロさん、お願いがあります」
「駄目だ」
「まだ何も言ってません…」
「お前、もう時間ないだろ」
「はい。だから…」
だから、じゃない。俺ではなく仕事を優先しろ、と諭そうとした時、野分が口を開いた。
「駅まで一緒に行って欲しいです」
「……は?」
「もう少しだけ、一緒にいたいです。ダメですか?」
「な、なんだ…。そんな事か…」
「そんな事?」
「あー、いや、こっちの話だ…。気にするな」
野分の“お願い”を変な風に想像してしまった自分が恥ずかしすぎる。
まるで俺が期待しているみたいじゃないか。
…いや、野分がいつも変な事ばかり要求して来るからそのように考えてしまったに違いない。そうだ、野分が悪い。
「どーせ今日は本屋に行こうと思ってたから、ついでに行ってやってもいいけど」
「はいっ。ありがとうございます!」
ほんの僅かな時間でも、一緒にいられるのが嬉しい。
俺はそんな可愛げのある事を言えないから、ワガママを装う野分のお願いをしょうがなく聞いてやってるフリをする。
その事に気付いているくせに、気付かないフリをしてくれる野分の優しさもまた、嬉しかった。
Fin.
--
短めで優しい話を書こうと思ったのですが、そんなに短くなりませんでした…。
あと、野分の服をぎゅっと掴むヒロさんが書きたかったのです。
もしかしたら夜中に帰ってくるかも、とかすかな期待を抱いて、今日が休みなのをいい事にダラダラと本を読みながら夜更かししてしまったので、まだ寝足りない。
そのまま再度深い眠りに落ち掛けた時、リビングの方で何か物音がしたような気がした。のそのそとベッドを這い出し、リビングに続く扉を開けると、野分がいた。
ソファの上に無造作に上着とバッグが置かれているので、帰って来たばかりのようだ。
キッチンに立つ野分は俺が起きて来た事に気付いていない。
「野分」
「あ…ヒロさん。おはようございます」
「おはよ。…お帰り」
「ただいまです。起こしちゃいましたか?すみません」
「いや、別にいい」
こんな何気ない会話を交わすのも久しぶりで、野分の柔らかい声音が心地良く響く。
「俺、着替え取りに来ただけなんで、またすぐに出なきゃならないんです」
ああ、そうなのか…。
野分の言葉に思った以上に落胆する。
「少し時間あるからヒロさんの朝ご飯だけでも作って出ようかと思ったんですけど…」
「バーカ。お前まだ仕事中なんだろ。俺のメシの事なんか気にすんな」
こいつは、夜勤明けで疲れているだろうに、自分の事は後回しにして俺の事を心配する。そんな事する暇があるなら少し休みやがれ。
「メシの支度、俺も手伝うからお前も食ってけ」
二人で準備すれば少しは早くできる。休日を一緒に過ごせないのならば、朝食位付き合わせてやる、と拗ねたガキのように心の中で毒づいた。
普段から会話が多い方ではないので、朝食を食べる間もさほど言葉は交わされない。それでも、野分がここにいるだけで、朝の光が差し込むリビングが更に柔らかい空気に包まれているような気分になる。
しかし、そんな優しい時間もいつまでも続かない。
「野分、時間平気か?」
「そろそろ出ないと間に合いませんね…」
俺が半ば強引に引き止めたような感じだったのに、お前が名残惜しそうにしてどうする。野分のそんな表情を見てしまうと、『行くな』と言ってしまいそうな自分が怖い。
「片付けはやるから、お前はさっさと行け」
だから、本心を隠し、野分に上着とバッグを押し付けて玄関まで追い立てる。
「それじゃあ、行ってきます」
玄関で見送る俺の顎を軽く上げて、まるで当然のようにキスをする。
行ってきますのキスなんてこっ恥ずかしいものはやめろと何度も言ったのに、聞く気はないらしい。
軽いキスをして、二人の顔が離れた後も野分は何故か出掛ける素振りを見せずに俺の顔をジーッと見ている。
「何。早く行けよ」
キスされてただでさえ顔が赤くなっているのに、見つめられて更に頬が火照るのを感じる。何を考えているんだ、こいつは!
「えっと…。ヒロさんが離してくれないと行けません」
「は…?」
困惑したような表情の野分が視線を落とした先を見ると、野分のシャツの裾を掴む、俺の手。
「うわあああっ!?」
慌てて手を離す。いつの間に掴んでたのか全く覚えがない。
無意識のうちに掴んでいたなんて質が悪い…。
「いや…っ、これは違うからなっ!お前に行って欲しくないとかではない!断じて違うぞ!!」
「ヒロさん…」
「なんだその幸せそうな顔は!さっさと仕事に行けと言ってるだろーが!」
言葉を発すれば発する程、墓穴を掘っているような気がして、恥ずかしさを誤魔化す為に怒鳴り散らす。
野分はそんな俺の腰を片手で引き寄せ、さっきよりも深いキスを落とす。
もう片方の手は俺の指に絡められ、野分の掌の熱を感じる。
流されてしまいそうになった時、不意に野分の顔が離れる。
物足りなく感じてしまうが仕方ない。野分はまだ仕事があるのだ。
それでも、腰に回された腕はそのままで、いつもの黒目がちな瞳で俺を見下ろす野分。
「ヒロさん、お願いがあります」
「駄目だ」
「まだ何も言ってません…」
「お前、もう時間ないだろ」
「はい。だから…」
だから、じゃない。俺ではなく仕事を優先しろ、と諭そうとした時、野分が口を開いた。
「駅まで一緒に行って欲しいです」
「……は?」
「もう少しだけ、一緒にいたいです。ダメですか?」
「な、なんだ…。そんな事か…」
「そんな事?」
「あー、いや、こっちの話だ…。気にするな」
野分の“お願い”を変な風に想像してしまった自分が恥ずかしすぎる。
まるで俺が期待しているみたいじゃないか。
…いや、野分がいつも変な事ばかり要求して来るからそのように考えてしまったに違いない。そうだ、野分が悪い。
「どーせ今日は本屋に行こうと思ってたから、ついでに行ってやってもいいけど」
「はいっ。ありがとうございます!」
ほんの僅かな時間でも、一緒にいられるのが嬉しい。
俺はそんな可愛げのある事を言えないから、ワガママを装う野分のお願いをしょうがなく聞いてやってるフリをする。
その事に気付いているくせに、気付かないフリをしてくれる野分の優しさもまた、嬉しかった。
Fin.
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短めで優しい話を書こうと思ったのですが、そんなに短くなりませんでした…。
あと、野分の服をぎゅっと掴むヒロさんが書きたかったのです。
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