純エゴお題SS『うれしい気持ち』

ヒロさんは、滅多に素直な気持ちを口にしない。

ヒロさんの持っている高すぎるプライドがそうさせているのは知っているし、言葉に出さないからと言って俺の事が嫌いな訳ではない事も知っている。

それに、ヒロさんが言わないから、言葉がなくてもヒロさんの気持ちを察する事にかけては、誰にも負けないと自負している。ヒロさんは分かりやすいから、なんて言ったらまた怒られるのだろうけど。

だから、言葉がなくても構わないと思っていた。その分俺が「好き」だと言えばいいのだし、ヒロさんが「野分、さむい」と遠回しに言って来たら、遠慮なく思い切り抱き締めればいい。
言葉がないのが少し淋しいと思ったりする事もあるけど、素直に言えないヒロさんもまた可愛い、などと思ってしまったりするのだから、しょうがない。

だけど。

『俺の野分に気安く触ってんじゃねーよー！！！！』

ヒロさんをからかう為に、先輩が俺に抱き付いた時、ヒロさんが言った言葉が、嬉しくてしょうがなかった。公衆の面前で、あのヒロさんが、俺の為に…。

言葉がなくてもいいなんて、嘘だ。


＊＊＊


「『俺の野分』っていい言葉ですね～」
「だっ…誰もそんな事言ってねぇ！」
あの時の言葉を思い出して、幸せにひたる。相変わらずヒロさんは否定するけど、頭からすっぽりと布団をかぶってしまっているのは、覚えている証拠。
「ヒロさんがああ言ってくれて、俺、本当に嬉しかったんです」

家に帰れてから、約束した通り、何度も体を重ねた。いつもなら、「お前が勝手に言ってただけだ」などと言って抵抗する素振りを見せるのに、その日のヒロさんはすごく素直に俺のキスを受け入れた。それどころか、何度もヒロさんからのキスが降り注ぐ。引越しの事などを内緒にしていた事で、不安に感じさせてしまっただろうか。俺がヒロさんを求めているのと同じだけ、ヒロさんも俺を求めているのだと強く感じる事ができる。

ヒロさんに触れる事ができるのは、嬉しい。
でも、ヒロさんから触れてくれるのは、もっと嬉しい。

ヒロさんからの愛を全身で感じ取り、俺の心は、嬉しい気持ちと、ヒロさんを大好きな気持ちで満たされて行った。


Ｆｉｎ．

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いつも可愛いヒロさんですが、８巻の、しみじみと「野分の事が好きだなぁ」と実感しているヒロさんが可愛くて仕方ありません。あんな事があった夜だから、いつもより素直なはず。
お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。