GF e-side
純情エゴイストへの愛を散らかし中。
『すべて、預ける』の続きのようなものです。『すべて、預ける』を読んでいなくても問題ありません。
『すべて、預ける』は野分視点ですが、これはヒロさん視点。
***
うたた寝から意識が戻ると、近くに野分がいる気配がした。
目を開けるのも億劫で、そのまままどろみを楽しんでいたが、妙な事に気付く。
(……ソファで寝てるにしては、頭の下が固くないか?)
それに、ほのかに温もりも感じる。覚醒しきっていない頭で、自分がどういった状況にあるのかを考えていると、野分の大きな手が俺の頭を優しく撫でる感触がした。
一瞬のうちに覚醒し、一つの可能性に行き当たる。
(これは…。…俗に言う“膝枕をされている”という状況じゃないのか?!)
「なんで29歳の大人の男が、25歳の男に膝枕されなきゃならんのだーーーっっ!!」
と、叫んで飛び起きれば良かった。
なのに俺は、そのタイミングを逸して思わず固まってしまう。
それがいけなかった。一体どんな顔をして起きればいいんだ?
(……ヨシ。寝たフリだ)
野分だって、そう何時間もこのままでいる事もないだろう。俺の頭をどかしたり、俺を起こしたりした時に、さも何事もなかったかのように、その時起きたように振舞えばいい。
しかし、思考が落ち着きかけたところで俺はもう一つの事実に気付いた。
野分と、手を繋いでいるじゃないか…。
(くそっ!野分め!人が寝てるからといって好き勝手にベタベタしやがって!起きたら殴ってやる!覚えてろ!)
心の中で悪態をつきつつも、野分の手の温もりを感じて自然と顔が熱くなる。
(落ち着け…。落ち着け、俺!手を繋ぐ位、なんて事ないじゃないか。
ほら、もっとこう、すごい事に比べれば…………って、わーーーっ!!)
完全にパニックを起こし、考えなくていい事まで考えてしまっている自分に気付く。
今のは無しだ、無し!
「ヒロさん?」
思わず野分の手を握っていた手に力が入り、野分が遠慮深く声を掛けて来た。
呼ぶな、その名前を。嬉しくなってしまうから。
寝たフリをしなければいけないのに、隠し通せなくなってしまうから。
俺の願いが通じたのか、野分はそれ以上声を掛けて来なかった。
そのまましばらく時間が経っても、野分の退く気配はない。
俺がこの静かで暖かい空間に、またうとうととし出した時、静寂を破る音がした。
カシャッ。
……カシャッ???
聴いた事あるはずなのに、何の音かすぐには分からなかった。
しかし、理解した途端、今度こそ俺は飛び起きる。
「野分っ!てめー!」
「わ。ヒロさんっ」
案の定、野分の手には携帯のカメラ。
「人の寝顔勝手に撮るなって何度言ったら…」
「やっぱりヒロさん起きてたんですね」
抗議する俺に、陽だまりのような微笑みを浮かべる野分。怒鳴っていた事も忘れ、思わず怯んでしまう。人当たりの良い野分が笑顔を浮かべている事は多いが、俺に向けられる微笑みは、他の人に対するものとは全く別のものだと知っている。
深い愛情と信頼。全てを包み込むような、安心感。
この笑顔を見せられると、俺は弱い。
「…ん?“やっぱり”って…?」
「ヒロさん、少し前から寝たフリしてましたよね。耳が赤くなっていたから、分かりました。
俺に膝枕されて照れてるのかなー、可愛いなー、と思っていたら、思わず写真を撮ってしまいました」
“思わず”じゃねえ!
…バレてた。コイツは、俺が起きているのも、顔が赤くなっているのも、分かってやがった…!
一体何年前から同じ事を繰り返しているのだろう。俺はこんなにも学習能力がない人間だったのか?あまりの恥ずかしさに言葉を無くす俺を抱き締め、野分はキスをする。
「んっ…」
「おはようの、キスです」
顔が、近い。
いつも流されて、振り回されて、自分のペースを乱されて、翻弄ばかりされているのに、野分といると安心する。
「おはようって時間じゃないだろ…」
相変わらず素直になれない俺は、不機嫌さを装うが、多分野分にはそれも全部分かってしまっているのだろう。
俺を抱きしめる野分の力がぎゅうっと強くなる。
「ヒロさん、好きです」
もう何度も繰り返し言われた言葉。それでも、何度でも聞きたいと思う言葉。
野分の腕に、言葉に、笑顔に包まれて、俺は、俺が一番無防備でいられる場所に身を委ねた。
Fin.
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野分がヒロさんに見せるあたたかい笑顔が大好きです。その笑顔とか、野分がヒロさんを包む雰囲気が陽だまりみたいにぽかぽかあったかいなーという事を表現したかったのですが、なんか…失敗?
この後、どちらが先に手を繋いだかできっと揉めます(笑)。
お題は『綺羅星-Kiraboshi-』様から頂きました。