年末話

年末と年始はどっちでＳＳを更新しようかなーと思っていたら、友達が年末話をくれちゃいました！やったｖ　ありがとうｖｖ　嬉しかったので勝手に私が描いたイラスト付きで掲載です。

つづきからどうぞ！

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『冷める、冷めない』


つけっぱなしのテレビでは、新年へのカウントダウンが始まった。
遠くから、除夜の鐘の音も聞こえる。
除夜の鐘は正しくは、大晦日に107回、年が明けてから１回打って、行く年の煩悩を払い、来る年の煩悩を防ぐそうだ。
……そんなトリビアはどうでもいい。
俺の目の前では今、火にかけた鍋の中でぐつぐつと、年越しそばがゆであがろうとしている。
しめて、３人前。

野分が、居ないのに。

『ヒロさん、すいません。年が明けるまで、ヒロさんには会えそうにありません』

昨日の朝、あいつはそう言って、玄関先で、短いキスひとつ降らせて、慌ただしく出て行ったきりだ。
年の瀬といえど、否、年の瀬だからこそ、病院が忙しいのは、重々わかってる。
年越しを一緒に迎えられない事ぐらいで腹を立てるほど、子供ではないとも、自覚しているつもりだった。
のに。
なんだ、このイライラは？
そしてなんで俺は、いっぺんに３人前もそばをゆでているんだ？
―否、もし万一だ。万一、今、野分が帰ってきた時に、何も食うものが用意されていなかったら、仕事で疲れ果てたあいつが、可哀想じゃないか。
１人前は俺の分だが、腹をすかせたあいつなら、２人前くらいぺろっと食うだろう。うん、食うだろう。
だがしかし。
帰ってこなかったら、どうする？
否、帰ってこない確率の方が遙かに大きいんだ。なのに、何無駄な事をやっているんだ、俺は？
ぐるぐると自問自答しながら、ぼうっと、ゆであがったそばをどんぶりに移し、つゆを注いで、天ぷらを乗せた時だった。

がちゃがちゃ、ばたん、と、玄関の方で音がして。

「ヒロさん」

考えすぎで、ついに幻聴でも始まったかと思ったが、そうでもなくて。
野分が、帰ってきた。
コートもマフラーも身につけたまま、俺の元に小走りで近寄ってきたかと思うと、がばりと抱きすくめられる、その感触が、夢でも幻覚でもない事を、実感させた。
「何だよ、お前。年が明けるまで会えないって」
「手が空いたので、先輩が、あがっていいと言ってくれたんです」
そう言って寄せられた頬は冷たくて、こいつが、寒空の下を急いで帰ってきてくれたのだと、容易に想像させる。
ただ、俺に会いたい一心で。
そう思うと、嬉しいのと誇らしいのとなんかむずがゆいのとが、ごちゃまぜになった気分になるのだが、悔しいから、絶対にこいつには、正直には言ってやらないと決意する。
「放せ馬鹿。冷たいんだよ、お前」
「嫌です」
身をよじると、より一層ぎゅうっと抱きしめられた。
「寒いんです。だから、ヒロさんが温めてください」
「馬鹿、俺まで冷えて風邪ひくだろ。温まりたいならそれ食え」
湯気をたてる、並べられたどんぶりを指差すと、野分はそちらに目をやった。そして、おやつを与えられた子供のように、キラキラした笑みを向けるものだから、直視されるのが照れくさくて、視線を逸らす。
「ご、誤解するな。俺が腹が減ったから、たまたま作っただけだ、たまたま」
「かきあげ天ですか」
「何だよ、文句あんのか。エビ天より安く済んで、腹も膨らむだろうが」
「文句なんか無いですよ。ヒロさんが作ってくれたものなら、何でも、嬉しいです」
なんて、実に幸せそうにあいつが言うものだから、作った甲斐があったと、内心、天国まで飛んでいけそうなくらい舞い上がるのだが、これも、絶対に言ってやるものか。
やがて、テレビの中で、「新年おめでとうございまーす！」の声があがり、108回目の除夜の鐘がつかれた。
「ほら、年越しちまったじゃねえか。さっさと食え。そばがのびる」
「のびてもいいです。もう少し、こうさせていてください」
触れ合う頬が温まってくるのが感じられて、唇も、自然に触れ合う。

「ヒロさん」

長い長いキスの後、野分が告げた。

「あけましておめでとうございます、今年もよろしくお願いします」
「お、おう……」

年越しそばはすっかり冷めてしまっただろうが、今年も、俺たちの仲はきっと、冷めそうに、ない。

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冷たいほっぺくっつけてる野分が可愛いーｖｖ　エゴ二人の熱は冷めないですよ！冷めるもんか！いちゃいちゃくっついたまま新年を迎える二人のラブっぷりが大好きです！