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純情エゴイストへの愛を散らかし中。

2024'09.25.Wed
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2008'12.24.Wed
クリスマス話・前編です。

◇        ◇        ◇
 
例年通り街には色彩があふれていて、シャンシャンと賑やかに流れるお決まりの音楽は、クリスマスシーズンの真っ只中だという事を告げている。クリスマスなんておもちゃ屋の陰謀に違いないと分かっているのだが、幼い頃にはさんざんサンタクロースの恩恵に預かった身としては、バレンタイン程邪険に扱う事はできない。

小さい頃は何にも考えずに単純にサンタからのプレゼントを喜んでいたのだが、ある程度大きくなってからは、夜中に気付かれずに家の中に入って来てこっそり枕元にプレゼントを置いて行くサンタが不気味な存在に思えるようになり、もしかしたらサンタクロースは宇宙人なんじゃないかという考えに至って、クリスマスイブに眠りにつく事がひどく緊張感を伴うものになっていた。

というような話を野分にしたら、そんな事を考えるなんて一体いつ頃までサンタクロースを信じていたのか、と聞かれてしまった。正直に、中学生になって初めて真実を知ったと話すと「やっぱりヒロさんは可愛いです」などと言うので手当たり次第にクッションを投げつけてやった。

一人っ子だったせいで家で知る機会もなく、さんざん『サンタクロース=宇宙人』説を聞かせていた秋彦もサンタの正体を知っていたくせに教えてくれなかった。後で文句を言ったら「夢を壊したら悪いと思って」とぬかしやがって、反論できなかったのだ。

「俺は結構早いうちから知ってましたね。それなりの歳になると、先生が小さい子達にプレゼントを用意するのを手伝ったりしてましたから」
そうだった。施設ではいつまでも子供のままではいられなかったのだろう。年上の子は自然と本当の事に気付かざるを得ない。夢見る幸せな子供でいられる時間は俺よりずっと少なかったはずだ。
野分は何でもない事のように言うが、その事を当たり前のように受け入れなければならなかったというのはすごく寂しかったのではないだろうか。
「今度、小児病棟でもクリスマス会をやるんです。家に帰れない子達は可哀想ですけど、子供達いっぱいのクリスマス会ってなんだか懐かしい雰囲気があるんですよ」
生まれ育った施設でのクリスマス会を思い出したのか、少し懐かしそうに笑う。

「あー、じゃあその日は帰り遅いのか?」
別に『イブの夜は野分と一緒に過ごしたい★』などと思っているわけでは断じてなく、もし野分が早く帰ってくるならケーキとワインでも用意して、少しはクリスマスらしい事をしてやってもいいと思っただけだ。
「いえ、夜はシフト入ってないんで大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ…」
「イブはヒロさんと二人きりで過ごせますよ」
クスリ、と余裕の笑みを浮かべるのが悔しい。まるで俺が野分と過ごしたいと思っているのはお見通し、とでも言いたげではないか。
「べっ…別に俺はクリスマスイブだからと言って何か特別な事がしたいわけじゃないぞ!…お前がどーしてもって言うならケーキくらいは食ってやってもいいけど…」
「はい。俺、どうしてもヒロさんと恋人らしくイブの夜を過ごしたいです」
照れ隠しに言った言葉をどうしてコイツは真に受けた上に更に恥ずかしくなるような事を言うんだ!
「誰が恋人らしく過ごしたいなんて言った!ケーキ食うだけだ!あと酒!それと、プレゼント交換とかこっ恥ずかしい事はナシだからな!」
あらかじめ釘を刺しておく。ロマンチックにプレゼントを交換し合う気など更々ない。野分は不満そうにしていたが、この件に関して俺は退く気はなかった。

◇        ◇        ◇

そして、クリスマスイブ当日。
野分より先に仕事が終わった俺は、ケーキやらシャンパンやらを買い込んで帰宅する。ある事を計画しているので、買う酒の量はいつもより抑えた。今夜ばかりは酒に飲まれるわけにはいかない。

野分の帰って来る時間が迫り、妙にそわそわしている自分に気付く。何やってるんだ…。いつもと同じように一緒に飯を食うだけじゃないか。野分が『恋人らしく』などと言うから変に意識してしまうのだ。

心の中で野分に八つ当たりをしていると、玄関の扉が開く音がしてトクンと心臓が跳ね上がる。だから落ち着けって…。
「ただいまです。遅くなりました」
「おう、おかえり…って、何だそれは!?」
リビングに入ってきた野分は、クリスマスらしいアレンジが施されている大きな花束を抱えていた。
「ヒロさんがプレゼントは駄目だって言うから…。花束ならいいかなーって。バイト先に寄って作って来ました」
「お前が作ったのか?」
「店長に手伝ってもらった部分はありますけど、大方は」
プレゼントがダメなら花束で…という発想も訳が分からない。
そもそもそれは手作りのプレゼントになるのではないのか…?
「はい、ヒロさんどうぞ」
「あ、ありがとう」
あまりに野分が自然に差し出すので、思わず受け取ってしまった。
花束を渡す動作がこんなにも様になってしまうのはどうなんだ?
「あとこれもどうぞ。クリスマス会でもらったんです」
花束に続いて渡されたのは、菓子が大量に詰まったクリスマスブーツ。
……花束との落差が激しいというか野分らしいというか…。

「とっ…とりあえずメシにするぞ」
クリスマスイブといっても特別なご馳走を用意して待っていたわけではない。お約束のようなチキンやサラダも出来合いのものだったが、野分はそれでも楽しそうにしているから、まあいいだろう。
料理もあらかた片付いて、ケーキをつついていた俺のグラスが空いている事に気付いた野分がシャンパンをついでくれようとするのを制する。
「あー、もういい」
「まだそんなに飲んでませんよね」
普段に比べて明らかに飲む量が少ない俺を見て不思議そうな顔をする野分。今日は酔い潰れるわけにはいかないんだ。むしろ、野分に先に寝てもらいたいので、逆に野分のグラスに注ぐ。
「お前の方が飲んでないだろ」
こいつが酔い潰れたところを見た事がないので、どれ位飲ませれば寝てくれるのかが全く分からない。顔色も変わらないから判断もつきにくいし、長期戦になるかもしれないから自分は飲むのをセーブする。クリスマスブーツから菓子を適当に取り出して食べ始めると、野分は当然のようにキッチンに立ち、紅茶を用意して戻って来た。
「サンキュ。お前も紅茶か?」
酒を飲んでくれた方が俺としては都合がいいのだが、飲み物の種類を強要するのも不自然だ。
「はい。俺もお酒はこのヒロさんが入れてくれた一杯だけで終わりにします。
それより俺…ヒロさんも俺と同じように考えてくれてたのが嬉しくて…」
「は?同じ?何が」
何故か野分は目をキラキラと輝かせて嬉しそうにしている。
俺…何か言ったか?先程までに交わした会話を反芻しても、野分が喜ぶような事を言った覚えは何一つない。こいつは一体何を言ってるんだ…?

「俺、ヒロさんと一緒にチキンとかケーキ食べて過ごせれば、ヒロさんが酔って寝ちゃっても全然構わないと思ってたんです。酔ったヒロさんも可愛いし、赤くなった肌も色っぽいし…痛っ」
それ以上おかしな事を言ったら許さんという念を込めて手元の菓子をバラバラと投げつける。
「だけど、今日はヒロさんあまり酔わないようにしてますよね」
相変わらず俺観察が得意な野分にはバレバレか…。
どうやって誤魔化そうかと考えていると、野分はとんでもない事を口走った。
「それって、ヒロさんも今夜は俺ともっと恋人らしい事をしたいと思ってくれてるって事ですよねっ」
「は!?そんな事は一言も言ってないだろうが!大体何だ、“恋人らしい”とかワケ分かんねー…し…」
自分で墓穴を掘った事に気付き、慌てて口をつぐんだ時には、言葉は既に飛び出した後だった。

「恋人らしいというのは、こういう事です」
さっきまで人懐こい笑顔を浮かべていた人物とは別人のような表情をした野分に、思わず言葉を無くした。
ぐい、と肩を抱き寄せられ、深いキスを落とされる。
「…んーっ、んっ…」
抵抗しようともがいたが、体を抱きしめる力は強く、いつの間にか後頭部に回された手のせいで、頭を動かす事も出来ない。
「…んんっ……。…ふ…ぁっ」
されるがままに舌を絡めとられて翻弄され、蕩けそうになる頭で感じるのはいつもと違うキスの味。
(アルコールの匂いがする…)
普段、酒が入った状態であまりこのような事を仕掛けて来ないので、シャンパンの香りがするキスに益々頭がボーっとしてきてしまう。

…なんて悠長に考えている場合ではない。

「馬鹿…っ…のわ、き…離せって…」
精一杯理性を働かせて、一瞬唇が離れた隙に腕の中から逃れようとしたが、俺を離す気など更々ない野分の力は緩まない。それどころか、乱れた着衣の隙間から首元にも触れるようなキスを幾度もされる。
「!おい…やめ…っ」
「ヒロさん…」
耳元で囁くように名前を呼ばれ、体が熱くなる。
『流されるな』と命じる俺のなけなしの理性は、肌に触れる野分の熱と、そして自分のものか野分のものかもう分からなくなってしまった熱い吐息に溶けてなくなってしまったのだった。


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後編につづく。
エロ突入のような雰囲気ですが、残念ながらエロは無いです。
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