純エゴSS『大好きな人に贈る夢（後編）』

『大好きな人に贈る夢（前編）』の続きです。前編からお読み下さい。

◇　　　　　　　　◇　　　　　　　　◇
 

大きな手で頭が優しく撫でられる感触がした後、遠くでドアの閉まる音がした。
（ああ…野分が仕事に行ったのか…）
半分寝ている頭でそんな事を考え、時間を確かめる為に目を開けた時、自分の失態に気付いて飛び起きた。
「…もう朝じゃねーか……」
やってしまった…。昨夜はあのまま野分のペースに巻き込まれ、体力を使い果たしてそのまま寝てしまったのだった。というか、寝た時の記憶すら曖昧だ。酒に飲まれなかったのにこんな事態になってしまうとは…。
野分が『恋人らしく』と言っていた時からこうなる事を予測しなかった俺の計算ミスだ。

自分の流され易さと、ついでに野分の強引さを呪いながらのろのろとベッドから出る。放り出されていた衣服を羽織り、自分の部屋に置いてあるカバンの中に隠してあった箱を取り出す。
「どーすんだよ…これ…」
綺麗にラッピングされてリボンを掛けられた小さな箱。
俺の計画では、野分を先に寝かせ、その枕元にサンタクロースを気取ってプレゼントを置いておくつもりだった。プレゼント交換なんて恥ずかしい事ではなく、幼い頃に嫌でも夢から醒めなければならなかった野分が、かつて与えてもらえなかったものを与えられたらと思ったのだ。俺は野分の親ではないが、その…まあ、恋人なワケだし、愛情が籠もったプレゼントという点では変わらないんじゃないかと単純に考えただけだ。

しかし作戦は大失敗。クリスマス当日の朝にプレゼントを見つける事が大事だったのに、プレゼントは枕元に置かれる事すらなく、本人は出掛けてしまった。直接渡したら意味がない。
深い溜め息をついて、取りあえず出勤する準備を開始した俺の目についたのは、菓子がなくなって空になったクリスマスブーツ。サンタクロースからのクリスマスプレゼントといえば靴下の中に入っているというのがお約束だが、ブーツも同じような形をしているからいいのではないだろうか。
――よし。

ブーツの中にプレゼントを突っ込み、野分のベッドの枕元に置く。野分がこれを見つけるのは夜になるだろうから、サンタクロースのプレゼントとしては随分遅いが仕方ない。渡さないよりはマシだ。
（見つけたら喜ぶかな…）
多分あいつは俺からのプレゼントならなんでも喜ぶんだろうが、やっぱり反応が気になってしまう。これを見つけた野分が喜んでくれるといいなと思いながら、俺も仕事に行く為に家を後にした。

◇　　　　　　　　◇　　　　　　　　◇

「つ…疲れた………」
年の瀬も迫り、やらなければいけない仕事は山積みで、なんとか残業を切り上げて家に帰って来た時には随分遅い時間になっていた。
「ただいまー」
「ヒロさんっ！！」
「うわっ！なんだよ…っ！？」
リビングに入るなり、野分に全力で抱きつかれて倒れそうになる。『お前は体がデカいんだからいきなり飛びつくな』と何度も言ったのに覚えない奴め…。
「サンタさんが来てました！」
「は？」
「今日帰って来たらサンタさんからのプレゼントがブーツに入って置いてあったんです！」
「あー…良かったな」
一日中忙しくてすっかり忘れていたが、置いていったプレゼントは無事に見つけてもらえたらしい。
「すごく嬉しいです。ありがとうございます！」
「…礼なら俺じゃなくてサンタに言え。つーか、サンタにしては来るの遅過ぎるだろう。遅刻サンタめ。来年は倍のプレゼントでももらえ」
「来年は、サンタさんをもらう事にします」
「はあ！？サンタは物じゃねえ！大体サンタいなくなったら再来年からプレゼント貰えなくだろーが」
「再来年もサンタさんが欲しいです。プレゼントもすごく嬉しいです。でも、俺の為にプレゼントを用意してくれた可愛いサンタさんを貰えたらもっと嬉しいです」
野分の口から飛び出す恥ずかしい言葉に、顔が真っ赤になっているのを自覚する。抱きしめられたままで良かった。こんな顔見られてたまるか。

喜んでもらえたら嬉しいと思っていたのに、こうやって喜びを前面に押し出されると恥ずかしくなってしまう。抱きついたままの野分は俺よりずっと背が高いくせに喜ぶ姿はまるで子供のようで、手を伸ばしてポンポンと頭を撫でてやると、廻された腕に力が入った。


Fin


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ヒロさんが、口には出さないけどモノローグの中で野分の事を「大好き」と思っているのが可愛くて好きなので、タイトルにつけました。